まじかよ、タイドラマ!タイポップ!

タイのカルチャーと音楽(T-POP/タイポップ)にハマって遂にタイ移住してしまったZ世代男子

【独自】タイBL俳優Nat『僕はこの産業を、この国を、本当に理解できない』…その真相とは?

『タイという国は、BLドラマにおいてとても人気のある国です』
『この産業で(タイは)沢山のお金を稼ぐのにも関わらず、同性婚を支持しません。LGBTQ+を支援しません
僕は、本当に理解できません

— Nat ;) (@natasittttt) 2022年3月30日

 

タイから、世界へ。

現在放送中の人気タイドラマ『Cutie Pie Series』にてメインキャストの一人を務める俳優、Nat(ナッ)
2022年3月30日、BLドラマ俳優である彼の口から、タイBLドラマ産業あるいはタイ国家を批判するような、非常に強い発言が飛び出しました。

弱冠19歳の彼は、なぜこのような過激かつ勇敢な発言に至ったのか?
その背景を探ります。


【おことわり】

タイ語機械翻訳が機能しないことが多いうえに(上記ツイートをGoogle翻訳すると全く逆の意味に訳出されてしまう)、微妙なニュアンスを正確に訳出するのが困難な言語です。
本稿においては私自身で翻訳作業を行い、できる限り直訳して、原文のニュアンスそのままにお伝えするよう心がけていますが、万が一、翻訳や記述内容に間違いがございましたらご指摘ください。訂正いたします。

 

【目次】

 

1. Nat(ナッ)のプロフィール

人物・経歴

f:id:tomyumakt:20220409183855j:plain活動名:Nat(ナッ(ト) / ณฐ)
本 名:Natasit Uareksit(ナタシッ(ト)・ウアエー(ク)シッ(ト) / ณฐสิชณ์ เอื้อเอกสิชฌ์)
誕生日:2002年8月8日(19歳)
所 属:DomundiTV
出演作:Cutie Pie Series(2022)
    Close Friend(2021)
    Why R U?(2020) 他多数

 

人物像(個人的見解)
  • 『Why R U?』というドラマで、6つ年上の先輩俳優・Max(@mmaxmax)とカップル役を演じる。
    その後出演したドラマのカップルの相手役は、ほとんどMax。

    f:id:tomyumakt:20220409184334j:plain

    左がNat、右はMax
  • プライベートでも非常に仲が良く(?)、「上裸などhotな投稿をする際はまずは僕の許可を得ること」という命令をMaxに下している(2022年3月25日、Twitter

  • Maxにつけたあだ名は「子どもおじさん(ลุงเด็ก)」
    優しい年上男性を小馬鹿にする生意気さが垣間見えます(※かわE)

    f:id:tomyumakt:20220409185038j:plain

    おじさんは子守で忙しい
  • 一方で、非常に純粋な心の持ち主
    『Cutie Pie Series』完成記念ファンミーティングにおいて、制作時の出来事について語っていると、出演者やスタッフの温かさを思い出して思わず泣く(2022年2月12日、YouTube)。

    f:id:tomyumakt:20220409190505g:plain

    彼より心が綺麗な人はこの世にいません(断定)
  • 演技には未熟な部分があるものの、回を重ねるごとに上手くなっているのは誰の目にも明らか。影で努力していることが伝わる。

⇒以上から、Natさんは純粋で真面目な青年である。(断定)

 

2. 該当ツイートのきっかけとなった事件

(1) 同性婚を認める法改正案が否決された

なぜNat君は上記のような強烈な発言をしたのでしょうか。
ことの発端は2022年3月29日、タイで起きた次の政治事件です。

このニュースのタイトルを翻訳すると、

「内閣決議は、理事会が提案した同性婚に関する法改正についての民法改正案を受け入れない。」

となります。 
同性婚を認めようとする法改正案が否決されてしまったのです。

タイでは同性婚は認められていません
欧米諸国では同性パートナーに対する権利が当たり前となり、台湾がアジア初の同性婚を認める法改正を行った*1昨今。

タイ政府が同性婚に後ろ向きな姿勢を示したことは、タイ国民の間で大きな話題を呼びました。

 

(2) タイ国内における同性パートナーの権利――「同性婚」と「パートナーシップ」の違い

タイは保守的な国である言われています。*2

2022年4月時点、同性同士の結婚は法律で認められていません。
2-(1)で述べたように、同性婚を認めようとする法改正案は否決されてしまいました。

そんなタイですが、日本よりも先進的な決定が行われています
2020年7月タイ政府は、同性パートナーシップを法的に認める法改正を実施しました。

とはいえこの「同性パートナーシップ」、「同性婚」とは異なる部分があります。
「同性パートナーシップ」は、同性カップルに対し、婚姻関係にあることを公に認めるものの、異性カップルが持つ全ての権利を保証するものではありません*3

同性パートナーが得る権利には、

 - 子供を養子に迎えられる
 - 相続権を主張できる
 - 財産を共同で管理できる

などがある一方、認められない権利としては

- カップルで暮らすことによる免税
- 配偶者給付の社会保障給付
- 配偶者給付の医療権

が主に挙げられます。社会福祉面の権利が認められていないことが分かります。

以上をまとめると、

  • タイは同性パートナーシップを法律で認めているが、「同性婚」は認めていない
  • 「同性パートナーシップ」と「同性婚」の間には権利面での格差がある
  • 同性カップルは権利の面で、異性カップルに大きく劣る

と言えるでしょう。

BLドラマに親しむ私たちは、「タイはセクシャル・マイノリティの楽園である」というイメージを持ってしまいがちですが、
現実には差別・区別があり、格差が残っているのです。

 

(3) 法改正案否決に対する反応

勘が鋭い方は察されたでしょうか。
「法改正案を否決した」というニュースに対する反応の1つが、冒頭に紹介したNat君のツイートでした。(下記再掲)

『タイという国は、BLドラマにおいてとても人気のある国です』
『この産業で(タイは)沢山のお金を稼ぐのにも関わらず、同性婚を支持しません。LGBTQ+を支援しません
僕は、本当に理解できません」

— Nat ;) (@natasittttt) 2022年3月30日

Nat君はBLドラマ俳優です。言葉を選ばずに言えば、「タイはセクシャル・マイノリティの楽園である」というイメージの創り手を担ってしまっている側です。

そんな彼が、BLドラマ業界、あるいはタイという国家に対して放ったこの言葉。
非常に勇敢で、力強いメッセージだと感じました。
タイドラマを愛する皆さんにぜひ知って欲しい言葉です。

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私は普段からタイBL俳優のSNSやお仕事の数々を拝見しているのですが、
正直、彼らはLGBTQ+を取り巻くタイ国内の環境に対して興味や関心がない、あるいは行動を起こせないのだろうと思っていました。

どこか悲しかったのも事実。
BLはあくまでBLの世界でしかなくて、現実とは繋がっていない虚構の空間なんだな、と。

しかし、Nat君のようなBLドラマ俳優の方がセクシャル・マイノリティの権利に関して強く言及したことで、勇気や希望を感じた人も多かったのではないでしょうか。私もその一人です。

Nat君同様に反応したのが、Cutie Pie Seriesで主役を務める「New」君。
彼も弱冠二十歳ではありますが、彼のツイートは4.1万件のリツイート、3.1万件のいいねを集めました。非常に大きな反響です。

『誰もが平等を求めている。似たものではなく』 #同性婚
— NuNew (@CwrNew) 2022年3月30日

皆さんはどうお感じになりましたか?
ぜひコメント欄などで教えて下さいね。

 

(4) 時系列まとめ

以上を時系列順に並べます。

2020年7月 タイで同性パートナーシップを認める法改正がなされる
↓ 
同性婚」を認めようとする法改正案が審議されるようになる

2022年3月29日 同性婚を認める法改正案が否決される

2022年3月30日 New(@Cwrnew)が反応する

2022年3月30日 Nat(@natasittttt)がNewのツイートに反応する形でツイート

という流れでした。

 

3. Cutie Pie Series の影響

最後に、これは完全に私の推測ですが、彼の発言を後押しした要因の一つに彼の出演するドラマ『Cutie Pie Series』が大きく関わっているのではないか、と考えています。

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下段右から二人目がNat

Cutie Pie Series』はタイのテレビ局・Workpoint TVが制作するBLドラマ。
Nat君はメインキャストのうちの一人として出演しています。
簡単にあらすじを紹介すると、

2つの大企業の御曹司である2人の息子、KueaとLian。
彼らは幼い頃、両親に婚約することを決定されていた!
Kueaは婚約相手のことが大好きであるが、Lianは結婚を全く望んでいない!
2人の運命はいかに?

というストーリーです。

ここまで読むと「よくあるBLドラマじゃん」となるのですが、そう結論づけるにはまだ早い

こちらはドラマのTeaaser映像です。特に、3分08秒からのワンシーンにご注目。

youtu.be

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『社会は僕たちの見た目だけしか受け入れてない』
『だからこそ戦い続けないと』

……このセリフ、男性同士の恋愛や結婚に対する社会の冷ややかな反応を描いていると思いませんか!?

 

(-----余談-----)
セリフの日本語訳が素晴らしいのです。英語訳は「Society only nominally accept us.」すなわち「社会は僕達を名目上受け入れるだけ」ですが、日本語訳は「僕達の見た目しか受けれ入れてない」となっています。BL俳優の見た目と腐営業にしか興味を示さない日本のBLファンに釘を刺すかのような翻訳。最優秀賞をあげたい(↓)

(-----余談おわり-----)

 

脱線しましたが話を戻します。
このドラマでは他にもLGBTQ+をサポートしようとする姿勢が表れており、Teaser映像のみならず本編第2話でも

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というセリフがあったり、最近は役者達が

 
 
 
 
 
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LGBTQ+をサポートする投稿をしたりと、
制作陣と俳優たちが一丸となってセクシャル・マイノリティを支援しようとする様子が見て取れます。

制作陣が俳優たちの社会問題に対する意識を高めているとすれば素晴らしいですし、
教育を受けた俳優側が社会問題を自身の問題として捉えているのだとしたら、さらに素晴らしいです。
なんというか、推せますこういう人を、推したい

 

話をまとめると、彼の勇敢な発言はドラマ『Cutie Pie Series』に後押しされた側面があるのではないか、ということです。

 

4. まとめ

ここまで、2022年3月30日にNat君が

『タイという国は、BLドラマにおいてとても人気のある国です』
『この産業で(タイは)沢山のお金を稼ぐのにも関わらず、同性婚を支持しません。LGBTQ+を支援しません』
『僕は、本当に理解できません』

と発言した背景を考察してきました。

セクシャル・マイノリティの楽園というイメージを持たれがちなタイですが、依然として差別は存在すること。

BLドラマ産業の大部分は男性同士の恋愛を売り物にしているにも関わらず、セクシャル・マイノリティへの支援を行っていないこと。

しかし、ドラマ『Cutie Pie Series』制作陣と俳優達は自身が所属する業界構造の問題点を身を切って学び、改善するため行動を起こしているということ――。

 

社会問題を学んだうえで当事者意識を持ち、さらに行動で示したNat君は、非常に勇敢で尊敬に値すると思います。
加えて、俳優である以前に一人の若者である彼を、教育をもって導いた『Cutie Pie Series』制作陣の意識の高さも素晴らしいです。

(問題を真摯に学習したNat君がまた素晴らしいのですが)


一方で、消費者である私たちも、旧態依然としたマインドセットをアップデートする必要があるのではと感じたのも事実です。

「男性同士の恋愛が当たり前なフィクションの世界で、二人が幸せになれればそれでいい」、「イケメン同士がスキンシップを見せてくれればそれでいい」――、本当にそれだけでよいのでしょうか

今こそ、心の底から応援できる俳優さんはどのような人か、あるいはドラマはどのようなものかを考え直す、チャンスです。


少なくとも私は、Nat君を応援し続けようと思います。行動で示しながら。(未来永劫銭を搾り取られるオタクここに誕生)

 

本稿は以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。
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